おじゃったもんせ、指宿の宿泊と食

鹿児島は指宿にいます。予約したホテルに到着するも、建物まるごと真っ暗だった。入り口の鍵は閉まっていて、全く人気がない。ロビーの窓ガラスを覗いてみると、非常灯からこぼれる緑色のあかりがちらほら見える。人というのは、思いがけない事象に遭遇したとき、過去の経験に照らし合わせて現状を理解しようとするものだ。ホラー映画か、いやこれは現実だ。閉業ではなくて、たぶんお休みなのだ。ちょっとまて、ホテルという業態にお休みがあるのか。

すぐさま hotels com に電話する。「おまちください」、その10分後「わたしたちもホテルと連絡がつきません」「#%&0”?!¥&@サービスにつなぎます、おまちください」と片言の日本語で再度待機を命じられ、さらに30分ほど保留音を聞いていると、iPhoneのバッテリーが切れた。

これがインターネッツだ。いつもは一瞬のダンだけど、システムの枠から一度外れてしまうと時間がどんどん消えていく。この日の予約が僕ひとりで、ホテル側も狙って予約を飛ばしたんだろう。というか、ホテルのお休みって存在するのだ。

状況に文句を言ってもなにも始まらない。わかっている、わかっているけど恨みくらいひとつ言いたい。いやまて、落ち着け。ある意味、貴重な機会に出会えたのかもしれない。ここで癇癪をおこすよりも、おまえは解決した手腕を誇りすべきじゃあないのか、誰にみせるのでもなく。そうだ、いますぐ憤りを行動に変えろ。人生は自分の手中にあることを忘れるな。コールセンターの対応を待つよりも、現場にいる自分自身で解決するのだ。すでに時計は20時を回っていて、もしかしたらのれんに腕押しかもしれない。もし見つからなかったら、最後はレンタカーで寝ればいい。どうせ気ままな一人旅だ。

iPhoneにバッテリーをつないで、Google Mapsでヒットした赤ポッチを眺める。ホテルよりも民宿がいい。電話をかけ始めて数件目にして、素泊まりで1名お願いすることができた。この世もまだまだ捨てたもんじゃない。この時間の突然のお願いを受け入れてくださった 民宿たかよし さんに感謝します。

民宿の皆さんはとても温かかった。「大変だったねえ。ご飯まだでしょう?」「はい、どこか近くにお店はありますか?」。そろそろ門限の時間だけど、大丈夫ですよ鍵開けときますよという言葉が、より身に染みる。ほんとうにありがとうございました。

民宿で紹介された居酒屋へ。お店の大将二人が(冗談ぬきで)西郷さん像みたいな出で立ち。お腹の出具合とソース顔、これが薩摩隼人なのだ。

黒板に書かれた刺し身メニューの層が厚い。そうだ、ここはカツオの本場だ。本ガツオとウルメイワシをお願いして、美しさアンド美味さにまいってしまい、さらにはハガツオをお願いしてしまう。一皿にちゃんと背と腹がある。これなかなかできない。腹には皮がついていて、生の皮付きハガツオなんて初めて食べました。

カツオの旨さってのは、旨味と酸味のぎりぎりのところに、うっすらと生臭さが隠れていて、それを薬味で打ち消して食べるところにあるんだと思う。そうだそうだ、それを鹿児島では甘い甘い醤油で食べるんだった。カツオのもっちりした食感、生姜とわざび、甘い醤油、それら珠玉がいりまじった口のなか。ここで芋焼酎の登場だ。口腔がアルコールと芋独特の風味で洗われていくこの快感は、まるでお抹茶ようだ。口のなかで五味がメリーゴーランドする。

僕は焼酎はからっきしで、正直なところあまり得意じゃない。しかしながら、カツオの美味さにつられて37度を3杯飲んでしまう。ごちそうさまでした、明日はどっちだ。

タグチヒトシ
演出家。パフォーマンスグループ GRINDER-MAN代表。リアルタイムなライフログはFacebookにて。YouTubeにてダンス映像 Dance Brew を配信中。