GRM blog : 行く
日々のほとばしりから市井の美味そして旅のしおりまで
2016年7月8日23時16分
先週中頃に日本へ帰ってきました。今日の東京くらい、テルアビブの毎日は暑かった。日差しが強くて、まあ首が焼ける焼ける。
設営、リハーサル&撮影、編集、そして本番。作品制作にどっぷり浸かることができたのはほんとうに幸せでした。観光らしい観光といえば、毎日お昼に地中海をぼーっと眺めてたくらい。ホテルの朝飯がほんとうに美味しくて、これからを予感させる作品が出来上がって、それでもう十分です。
イスラエルでの没入体験型新作「Neighbor」の発表は、しっかりと手応えが感じられるとても有益なものでした。前例の無いプロダクション進行は、内容の製作と計画の遂行の両輪を回転させていくわけで、タイトなスケジュールを乗り切って発表まで漕ぎ着けられたのは、ご協力くださった皆さんのお陰です。心から感謝を申し上げます。
「それを体験する観客が演者になる」というざっくりとしたアイデアを思いついたのが3年前。観客が体験するフレーム自体が作品で、出演者が居ないくても成り立つ、状況が自律性を備える作品を作ってみたい。
とはいえ、実際に考察してみるとこれが難しい。体験する観客がフレームを享受するだけになってしまうのは、よくある体験型作品となんら違いはなくって、そこから頭一つ抜きん出たい。体験者は、本人のうかがい知れぬところで演者にさせられてしまって、その状況を観て観客はメタ認知を楽しむ、というフレームが作りたい。
そんなことを秘めながら3年が過ぎて、去年の12月おもむろに「Neighbor」の企画書類をこさえました。体験者2人の欲望に火をつけよ。作品の目的は「出会いの可視化」。目標は「体験が終わると仲良くなっている見知らぬ二人、そしてハグ」。恋の芽生えに立ち会えるかもしれないってなんてファンタスティックなんだ。
VR体験は、視覚と聴覚が制限されます。日常からの隔離は警戒心を発生するから、VRコンテンツは恐怖体験に親和性が高い。例えば、ゾンビが出てくるとか、ゆらゆらゆれる細い橋の上に乗るとか。2012年にMIRAGEを公演したときの「ひたすら怖かった」という体験者からの感想もひっかかったままだ。あれから4年が経った僕は、不安や恐れといった感覚とは真逆の、体験者も観客も多幸感を感じられるものを創るのだと肝を据えました。
お陰さまで、幸せあふれる作品になりました。HMDを装着して、手を繋いだ状態で始まる2名の体験者は、過去といまを行き来しながら、お互いの関係を手で探りあいます(文字通り)。上手くいくペアも居ればチグハグなペアもいる。嬉々とした振る舞いが生まれる時もあれば、哀愁が支配してしまう時もある。出会いなんてそんなものなんだ。そして時折うまれるハグに歓喜する僕ら観客。
今回の機会を与えてくれた、Print Screen Festivalのディレクターである Lior Zalmanson、そして Roni Mahadav、Shim Gil、Tomer Spector に感謝します。実施に至るまでの、フェスティバル側との喧々諤々に「おまえらskypeしたらいいんじゃない?」と仲をとりもってくださったイスラエル大使館のNir Turk、内田さん(内田由紀)ありがとうございました。
瞬時のジャッジと的確な言葉で指示を飛ばす藤井先生(@藤井直敬)、黙々と確かなテクニカル作業を積み上げていく濱條さん(@濱條貴光)。リハーサルと撮影のたった2日間でダンサー2名のこころを掴んだ伊豆さん(@伊豆牧子)。現場での僕のプンスカを現地スタッフへうまい具合に伝えてくださる小山田さん(@Satoru Oyamada)。ようやく見えてきた外枠をお伝えしただけで、育みへのドライブあふれる音色を仕上げてくださったevalaさん(@Evala Port)。プログラム連携の難問を徹夜で解決に導いてくださった、鈴木さん(@鈴木 真一朗)イトウさん(@イトウ ユウヤ)。男女の性差が感じられないグレーの衣装を数日でご用意くださった衣装の中村さん(@中村実樹)。ありがとうございました。
今回は現地のダンサーを2名キャスティングしています。彼らにお願いした役割は、過去映像での出演と、当日の体験者へのアテンド、そして本番の出演でした。現地の言葉で、現地の習慣を知る男女のダンサーが、滋味をかもしだしながらアテンドを遂行するのがベストだと思ったからです。短期間に作品の意図の理解から体験者への温かい雰囲気作りをしてくださった Dror Liberman と Ma’ayan Horesh には本当に感謝しています。
そして彼らのご紹介しかり、イスラエルの情報をつぶさに教えてくださった在イスラエル日本大使館の島田さん(@島田靖也)ほんとうにありがとうございました。
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